Little AngelPretty devil
           〜ルイヒル年の差パラレル

      “そういや虹も雨のあと”
 


今年もまた例によって、
梅雨入り宣言された途端に
“どこが梅雨?”と疑問視されるほど いいお天気が何日も続いて、
気象予報士のお歴々を焦らせた挙句。
降ったら降ったで、
台風という助っ人の力を借りての暴虐三昧。
一体いつの間に、そんな性の悪い風物詩になったんだ梅雨。
長雨が鬱陶しいけど、
まだ少し肌寒いかなと様子を見つつも半袖を着始めたり、
網戸を点検したり、
扇風機はどこにやったか、簾はどの窓に提げたっけといった
調度を入れ替えるという、夏の準備に手をつけつつの、
それなりに風情もあるねと語らい合えたのも今は昔…と。
このまま そうなってしまうのだろかしらね。




六月のカレンダーと言えば、五月と一緒の綴りではない場合、
しっとりと雨露をまとった紫陽花とか、
やはり曇天を仄めかしているのか、寒色を馴染ませた背景の中の青葉とか。
イラストものでも、てるてる坊主と雨傘に長靴というような、
梅雨を押し出した意匠のものが相変わらず多いのにね。

 「わあ、今日もいいお天気だぁ。」

天気予報では 午後からの降水確率は 40%だそうで。
今日はお昼過ぎまで授業があるからと、
一応は長い傘も持って来たけれど。
どういう巡り合わせか、
持って来ると…ぎりぎり曇天止まりで
差さずに済んでる日が多い瀬那くんらしく。

 『それって善いことじゃないか。』

雨もそりゃあ大事なお天気じゃあるけど、
学校の行き帰りは降ってない方が助かるだろうにと、
桜庭さんが言ってた理屈も判るのだけれど。

 “でもなぁ。”

早くもちょっと蒸す空気の中、
ちょみっと考え込むポーズとなったセナくんとしては。
おニュウの傘を早く差したいなぁというのが
いつまでもいつまでも果たされないから
そこがご不満であるらしく。

 “そりゃあ、濡れちゃうのは セナもヤだけど。”

雨が降ったら気をつけなきゃいけないものといえば、
せっかくの傘を忘れちゃって濡れて帰ったりしないようにとか、
本とか画用紙とか濡れたら弱くなるものは、
持って帰るときは出来るだけ
ビニールでくるみなさいねとか、色々あって。
それとは他にも、
静電気スパークを出す腕輪とか携帯とかは、
湿り気でうっかり誤作動しかねなくって。

 『…それって。』
 『あ、ううん。
  セナには安全なようにを最ゆーせんしてくれてるって。』

無理強いをされたことでセナが手放したらスイッチが働く基本仕様は、
コンセントへプラグ差したら充電が始まるってゆう理屈レベルで
鉄板なそれだから。
逆流とか暴発とかは絶対しないって。

 『本当に危ないぞってなったら、
  持ってられなくなるほど熱くなるから。
  そうなったらそのまま遠くへポイしろって。』

だからね、セナは大丈夫なんだけど。

 『…大丈夫、なのかな? それ。』(う〜ん)

何をか危ぶんでしまった桜庭さんだったが、
いかんせん一緒にいたのは進さんだけだったので、
進さんはこういうお話は苦手だったから、
相談のしようもなかったみたいで。

 『だから、あのね?』

ヒル魔くんが定めた“安全基準”以上の放電をしかねないので、
システムの安全装置を掛けなきゃいけないんだけど。

 『セナは時々うっかりさんだから、あのね?』

ケータイはガッコでは使わないこともあって、
ガッコ帰りとかって頃には、
そうしときなさいねって言われてたこと、うっかり忘れちゃうのね。

 『そいで こないだも。』
 『……こ、こないだも?』

いつぞや その“電撃殺法”を実戦にてご披露したがため、
綿あめみたいな ほわわんとした見栄えとの落差は、
既に凶悪さで有名な先達の、金髪の子悪魔くんどころじゃあないとまで、
巷でも 評されてんだか恐れられてんだかという身になりつつある、
こちらのセナくんであるからには。
一体どんな実例が飛び出すものかと思いきや、

 “つか、誰だ 性懲りもなく手ェ出したお馬鹿は。”

どんなジャンルの悪たれでもフォローしちゃえる、
硬軟のバラエティに富んだ 恐持ての後ろ盾が山ほどいるんだ…なんていう
色んな意味合いから、
おっかないにも程があるよな噂が付きまとおうと。
ご本人のこのかあいらしい風貌や言動を目にして、
なのに手を挙げようと思うよな鬼畜は、
成程 成敗されても文句は言えないのかも知れないけれどと。
桜庭さんとて そっち陣営への同情は微塵もないままに、
どこの誰がそんな無謀を…と息を飲んでしまっておれば、

 『あのね、
  熱くなったからって
  濡れちゃったハンカチのアイロンにしてたら、
  ヒル魔くんから叱られちった。』

 『それはもっともなことだよ、セナくん。』

てへへぇと そりゃあ愛らしく照れ隠し笑いをするものだから、
おおおと双眸を日頃以上に見開いて
可愛い可愛いと感動した“誰かさん”のことは見ない振りをし、
メッと叱った桜庭さんもまた、
セナくんを心配すればこそ言ってくれたんだと判るから。

 “ヒル魔くんからの“ダメ”は、特に厳守しなくちゃなんだな。”

うんうんと、ちょっと斜めなところを噛みしめてた可愛い素振りがまた、
朝という爽やかな時間帯の川の縁、
ジョギングコースとかぶっている道を行き交う人々を、
事情が判らねばこそで、
あらあら・おやおや、微笑ましいねぇと
ほのぼの破顔させていたりもするのは、果たして罪があるやら無いのやら。


  「あ、ヒル魔く〜んっ! おはよーっ!」


進行方向の先に、仲良しさんの金髪を見つけ、
ぱたぱた・とたとた、懸命に駆けてく坊や。
チューインガムをパチンと膨らませつつ、
ご挨拶もないまま肩越しに振り返り、
それでも“何だ?”と目顔で訊いてくれたのへ、

 あのねあのね、
 新しい“おニュウ”は何でも
 朝のうち、
 晴れてる時に下ろさなきゃいけないんだってね。

 「じゃあサ
  傘や雨靴はどうしたら良いの?
  あとお布団も
  新しいのって いつ下ろしたら良いのかなぁって
  ママがゆってたの。」

 「…お前な。」

判らないことがあったら蛭魔くんに訊こう、
いつものそれを発動しておいでの小さな坊や。
片やの坊やにしてみれば、
日頃の破天荒なレベルの強気を発動するまでもなく、
何で俺が答えにゃならんという意味合いから、
そんなもん知るかと突っぱねたって良いのにね。
他の子が見たらば、
うわわ爆発寸前かとたじろぎそうなほどに
細い眉を吊り上げていた妖一くんだったものの、

 「ちょっと待て。」

今 調べてやるからと、
薄手のパーカーのポケットからスマホを引っ張り出して、
いわゆる一般的な検索エンジン……じゃあなく、
知人の国文学者や風俗学者のせんせえらへ、
マッハで打ったメールを飛ばすところが やはりやはり頼もしい。
可愛らしいおでこを寄せ合うようにして、
メールが無事に送信されたの見届けて。
お返事はまだかな、
ガッコにつくまでに判るといいねぇなんて、
屈託のないお声で微笑ったセナくんの、
ほわふかな頬へサッとよぎったのは燕さんの影。
それなりの雨が降ってからでいいから、早く夏休みがくればいいのにが、
セナくんの目下の野望だそうで。
それまで元気でいてくださいねと、
土手沿いの桜並木の青葉が手を振っていた。




     〜Fine〜  13.06.24.


  *関西の中部は今日も雨になると言われていましたが、
   きっらきらに晴れてて蒸します。
   混み合わない時間だろからと、
   朝一番、コインランドリーの乾燥機へ
   洗濯物を放り込みに行ったお嬢さんが複雑そうな顔をしてました。
   まあねぇ、今時分の六時台の曇天は どう転ぶか判らないからねぇ。
   こういう個人的な当たり外れどころじゃないから、
   天気予報士の皆さんも大変でしょうねぇ。

めーるふぉーむvv ご感想はこちらvv

ご感想はこちらへ or 更新 & 拍手レス

戻る